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2019年1月 7日 (月)

『ファクトフルネス(FACTFULNESS)』賢い現代人へと導いてくれる名著

急いで読んでいたら、まさにこの本に指摘される愚を犯していた!

年末に、日経BPの中川ヒロミ女史に、1月11日に発売される『FACTFULNESS』(日経BP・1944円)をいただいた。

(ちなみに、電子書籍版は元旦に発売されております)



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「僕、読むの速いですから、ちょうど年末年始だし、サクッと読んで感想上げときますね!」なんて軽口を叩いたのを覚えている。

たしかに、僕は読むのは速くて厚い書籍でも2〜3時間あれば読み終われる。小説に至っては、読むのが速過ぎて、たくさん読むとお金がかかるから、なるべくゆっくり読もうと心掛けているほどだ。

自分が速く読んでいる状態を客観的に分析すると、目は文章をなぞりつつ内容をあるていど推測しながら読んでいるように思う。どういう展開であれ、時代劇なら最終的に剣豪が悪を切るし、ビジネス書なら目標を達成するための驚くほど効果的な方法が書いてある。その前提で文章が構築されているのだから、ハイスピードで読んで一部が欠落しても脳内で補完できる。そして、それで大筋間違いはない。

が、読みはじめてしばらくして、この本はそんな読み方をしていい本ではないことに気が付いた。

いつも本を読んでいる時にやるように『これは、こういう方向のコンテンツだろ?』と概要をまとめて類推すること自体が、この本が指摘している誤りのひとつだと思い知らされるのだ。

良著、しかし実に地味な本!

良著。しかし、そんなわけで、僕の文章力ごときで、この本を取りまとめるのは難しい。

一言一句読んで、血肉にしていただきたい本である。

しかし、編集者としていえば、よくこの本を出されたなぁ……と感心もする。

ネットの記事でいえば、PVを稼げる記事の対極にある本である。普通に考えると、なかなか容易には売れそうもない。読者の良識を信頼しているというべきか。

読めばその日から業績がグングン上がるというワケでもなければ、ひと足飛びに真実にたどり着けるわけでもない。聖書に『命に至る門は小さく、その道は狭く、それを見出すものはまれ』と書かれているとおり、真実に至る道に近道はないということを感じさせる。

PVを求めるためには炎上もやむなし、すぐに成果が上がる2次曲線的に効果が生まれる方法論……ばかりが求められる世の中にはあまりもマッチしない内容である。

いまこそ、正しいモノの見方を学ぼう

しかし、著者のハンス・ロスリング氏や、この本の翻訳出版を決めた日経BPさんの判断は正しいと思う。

いかに遠回りであれ、正しく、そして最終的に成果を上げるために、我々は『ファクトフルネス』を身に着けるしかないのだ。

それは、正しい意思決定の方法論。物の見方だ。

データを重視し、数値から物事を判断しなければならない……ということは現代人なら誰でも分かっていること。

しかし、我々はあまりに間違ったデータの読み取り方をし、間違った方向に意思決定をしがちなのだ。

それは、最初に13の質問に答えることで、明らかにされる。

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ロスリング氏の指摘によると、我々は、世界は分断されていると思いがちだし、世の中は悪くなっていると思いがちだし、今起っているできごとはこれからも同じように起ると思いがちだし、恐怖にかられがちだし、概略を捉えようとおするあまり、シンプルに単純化しようとしがちだ。

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そのうちのいくつかについては、我々メディアに責任があることもあるし、メディア人だからこそ陥りがちな過ちもある。

単純化しなければ伝わらない物事は多いし、なんとか興味を惹いて本なら部数を、ウェブ記事ならPVを得なければならない。

PVや部数を求める姿勢は利益至上主義として批判されるが、正しかろうが価値があろうが誰にも読まれない文章は、誰にも伝わらない文章として価値がない。利益を求める前に、我々メディアは多くの人に読まれなければ価値を生み出せないのだ。ゆえに、我々メディアは利益至上でなくとも、ウケを狙ってしまう習性がある。

それゆえ、我々はいろんな物事を分類(分断)し、悪いニュースを伝え、現在の動きから未来を推測し、恐怖を煽り、パターン化する。我々メディアに責任があることは認めるが、読者のみなさんも、そういう記事を取捨選択をして読んでらっしゃることを認めていただかなければならない。我々も読まれない記事を書いても仕方がないのだから。

明確にパターン分けするわけではなく、複雑な事象をあるていど複雑なままにし、平凡で当たり前の変化を地味に伝える記事を『でもこれは真実に近い』と見分けて、評価する目を持っていただかなければならないのだ。

この本は、そういう本当の意味で『賢い現代人』になるための手助けをしてくれる。

地味な本ではある。しかし、正しい価値判断をするためには『狭き門』から入らねばならないのだ。

短期的に目覚ましい成果を上げることはできないかもしれない。しかし、正しい判断は長期的には良い結果を産むものだと思う。

ネット文化とは対極の話だが、だからこそ2019年の春に読んでおかねばならない本だと思う。

世界を歩き、病気や貧困と戦った人だからこそのファクト

最後にもうひとつ補足を。

読みはじめると、著者のロスリング氏はは統計データをさまざまな角度から眺める学者タイプの人のように思える。

しかし、読み進めると次第に、彼は長らく現場で戦ってきた人であることを理解させられる。

病院の救急救命室で働き、エボラ出血熱と戦うためにリベリアに行き、1980年代には世界で最も貧しいエリアのひとつだったモザンビークの人口30万人の都市のたったひとりの医師として働いていたこともある。人口30万人の都市にひとりしか医師がいないと、多くの決断を迫られ、手の届かない多くの命を見送らなければならないことも、途中で切々と語られる。

最終的にロスリング氏は、目の前のひとりの命を救うより、世の中を改善し、多くの命を救う活動に移行し(目の前の病院で死にそうな人を助けるより、手を洗える水道を敷設したり、糞尿が付近に溢れないようにするために下水道を設ける方が多くの人の命を救えるのだそうだ。その通りだと思う)、スウェーデンに国境なき医師団を立ち上げ、世界保健機構、ユニセフなどの活動に尽力し、講演活動も積極的に行った。

文中に出てくるモザンビークのナカラでの道路封鎖の出来事は本当に胸が痛い。しかし、そんな経験を持つ人だからこそ、これだけのことができたのだろう(どんな出来事かはぜひ本を読んで知っていただきたい)。

残念ながら、氏は昨年すでにすい臓ガンで世を去ってる。この本は、氏と彼の息子のオーラ、オーラの妻のアンナの共著であり、ハンス・ロスリング氏が残した原稿を最後に彼らが取りまとめているということのようだ。

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このグラフは本の中にたびたび出てくる、彼らが『世界保健チャート』と名付けたグラフだ。X軸に所得、Y軸に平均寿命が配され、マッピングされるのは国ごとのデータで、円の大きさは人口を表している。

ロスリング氏たちは、このグラフを使って、我々にグラフから真実を読み解く方法、間違った結論に飛びつかないための方法を根気強く教えてくれる。

もし、あなたがすぐに儲かる方法、PVを稼ぐ方法、濡れ手に粟で稼ぐ方法を知りたいのなら、他に読むべき本はあるだろう。

少しまわりくどくても、正しい判断をしたい。常に惑わされず、世の中のファクトを捉えられる人になりたい……そう思うなら、この本を読むべきだ。それも、急がず、じっくりと。



(村上タクタ)

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  • 村上タクタ

    村上琢太。ガジェット好きの雑誌屋。'92年入社以来趣味誌ひと筋。バイク雑誌RIDERS CLUBから、現在はコーラルフィッシュRCエアワールドの編集長も務める。機能を突き詰めてカッコよくなったガジェットと、アイデアと楽しさに満ちたウェブサービスを紹介する本『フリック!』の編集活動に奮闘中。twitterアカウントは@flick_mag

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